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(19)17-11<平成29年度 優秀賞>飲酒事故の怖さ(近畿)(株)大阪西物流 神戸北営業所岡田耕次 これは私が30代半ばのころの話です。 当時私は、兵庫県柏原町という四方を山に囲まれた田舎町に住んでいました。どこへ行くにも車がないといけないという地域です。世間的には、当然飲酒運転など絶対に許されることではありませんでしたが、そんな場所柄ですから地域の人々の認識としては、飲み屋から家に帰るまでくらいは車を運転して帰っても大丈夫という風潮でした。 そのような地域独特の道徳観というか、勝手な解釈というような雰囲気のなか、地元で自分のトラックを所有し、地域の商店さんなどの荷物を運んでいるA氏と知り合い、その後家族ぐるみで付き合うまでになりました。 A氏は40代後半で人柄もよく、仕事熱心な人でしたが、仕事中に取引先のお店などでお茶代わりにビールなどのお酒を勧められても断ることなく、「コップ一杯くらい、缶ビール一本くらい。」という感覚で飲酒をした状態で運転に従事しているようでした。もともと私はこの地域の出身ではなく、いわゆる都会からの移住者でしたから当然のように「飲酒運転など絶対してはならない。」という信念をもっており、このA氏と知り合ってからしばらくして、A氏のこのふるまいを周囲の人々から聞き及んだとき、A氏に対して「飲酒運転なんて絶対したらあかん。もし事故でも起こして、人様に迷惑かけるようなことになったら、自分や家族も不幸になるで。」と顔を見る度に忠告をしていたのです。しかし、A氏は、年下でよそ者である私の忠告などに耳をかさず、相変わらず飲酒運転をするという日々を送っていました。 そんなある日、別の知人から「A氏が事故を起こした。」という知らせが入ってきました。私はすぐに「まさか飲酒運転では?」という考えが脳裏をよぎり、知人に「飲酒か?」と問いただす「たぶん間違いない。」という悲しい答えが返ってきたのです。 私はいてもたってもいられず、すぐに事故現場に向かいました。現場にはすでに警察官も来ており、現場検証が始まっていました。そして、A氏は、警察官の横で放心状態のような感じで、茫然と立っていたのです。その顔は、いつものA氏の表情とは全く別人のような表情で、「何ということをしてしまったのだ。」とでも思っているような感じでした。相手の人は、歩行者だったようで、すでに救急車でどこかの病院へ搬送されたようでしたが、A氏の表情から察するとかなりひどい容体であることが推測できました。そしてA氏はその日のうちに身柄を拘束されたのです。A氏には、奥さんと年頃の娘さんがいました。私は、法を犯してしまった本人が罰を受けるのは当然であったとしても、その家族はどうなるのだろうかという思いでした。 事故の数日後、相手の方はお亡くなりになり、結果としてA氏は交通刑務所に入らねばならなくなりました。残された奥さんと娘さんは、被害者遺族へのお見舞いとお詫びに訪れるという毎日を過ごしていたようですが、訪問するたびに、遺族から罵声を浴びせられ、玄関から中へは入れてもらえず、周囲の人々からは憐みの目で見られ、心労がたたったのか娘さんがノイローゼになり、私のところへ相談に来られたのです。 私は、奥さんと娘さんに合わせる顔がありませんでした。なぜなら、私はA氏の素行(飲酒運転)を知りながら、注意はしていたもののこのような結果になってしまうまで、その素行を止めることができなかったからでした。そんな私を頼って奥さんと娘さんは相談に来られたのです。 どんなアドバイスができるのでしょう。私自身も悩みました。そして、一緒に「今私たちに何ができるのか、そして何をしなければならないのか」ということを考えた結果、「A氏が起こしたような悲惨な事故がこの先、この地域で起こらないようにしよう。」という結論に至ったのです。 翌日から私たちの活動が始まりました。地元の飲食店を一軒一軒回り、飲酒事故撲滅のチラシを置かせていただきました。また運送会社には、運転者に酒を飲んだ状態で、運転をさせないでほしいという陳情書を提出しました。そして、朝夕には被害者方近くの小学校通学路で、通学児童の交通保護のため立ち番をしました。私たちが、そのような活動を約半年続けていた頃、被害者遺族の方にも知れることとなり、それまで補償の交渉など一切受け付けてくれなかった遺族がようやく交渉に臨んでくれることになり、さらには1年後、解決に向けて動き始めました。残念ながら、当時婚約していた娘さんの縁談は、破棄となりましたが、その後新たに彼氏もでき、最終的には結婚へとゴールインすることができたそうです。交通事故というものは、本人はもちろんのこと、その家族にまで心労と嘆きをもたらすものです。 私は、今でも「なぜあの時、A氏の素行を止められなかったのか。」という後悔が頭からはなれません。このことを教訓にして、以後自分がかかわることができる人たちが、このような悲惨な状況に陥るかもしれないようなことを行ったりしようとしているときには、何としても自分がそれを阻止するのだという強い意志で臨むようにしているつもりです。 現在は縁あって、運送会社の管理者として業務に携わっており、常にこの教訓を頭の片隅に置いて、「本人のため、家族のため」という思いで業務にあたっています。自動車共済・自賠責共済はぜひ近畿共済でご契約をお問い合わせ・連絡先京都事務所(075-671-1894)まで平成29年度 交協連主催 交通事故防止標語・体験記・児童画募集応募作品から平成29年度 交協連主催 交通事故防止標語・体験記・児童画募集応募作品から

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