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16-12(26)交協連事故防止体験記入選作品から交協連事故防止体験記入選作品から<佳作> 本当の勇気河北地域(株)HI-LINE 鯉田 尚生 六年ほど前の夜九時頃、仕事の帰宅途中に私は大きな交差点を右折しようとしていました。雨が降りしきり、路面には車や街の明かりが乱反射し視界はとても悪い状態でした。ハンドルを右に切った時、異常な光景が私の目に入りました。信号機の下で横たわる人と膝まずいて声をかけている人がいるのです。 人身事故の直後だと判断し、私は飲食店の駐車場に車を停め、携帯電話を片手に現場に走りました。横断歩道上で側頭部から血を流して倒れている人と周囲に散乱する荷物と前輪が曲がった自転車、その人に声をかけている人…誰もが目を背けたくなるような状況でしたが、私がショックを受けている場合ではありません。加害者に声をかけていました。警察と救急には連絡したんですか?」と聞くと「まだです。お願いします。」と加害者は泣きそうな顔で私に頼んできました。 こんな状況なのに、私は変な感覚にとらわれていました。「この加害者を助けてあげたい。」、側頭部から血を流す程の重傷を負った被害者が目の前にいるのに私は加害者を救いたいと感じたのです。こんな状況でとんでもない思い違いだと感じる人がほとんどだと思います。この体験記を読んでいる人に問いたいのですが、事故の加害者になってもなりふり構わず被害者の所に駆け寄る事ができますか?断言できますが、相手の落ち度の粗探しをしたり、状況の悪さを言い訳にして自分を正当化するように私は考えるはずです。 その後、被害者を救護しに行けるかどうかは正直分かりません。天敵から身を守ろうとする動物と同じように人間にも自己防衛本能が必ず働くので当然の反応だと思います。 しかし、この加害者は理性で本能をコントロールし、現場に留まる行動をとりました。 事故がどのように起きたかに関係なく、他の運転手や歩行者から投げつけられる視線…側頭部から血を流し、呼びかけにも応えない被害者。この辛い現実から逃げ出したくなるのが普通ですが、耐えながらも懸命にその人は被害者を救おうとしていました。「状況が落ち着くまで一緒にいますよ。」と私は加害者に声をかけ、自転車を安全な場所に動かしたり、周囲の車を誘導して現場の保全を図るなどを行いました。私は加害者にある種の尊敬の念を抱きつつ加害者の不安や孤独感が少しでも和らげば…と、私は現場に留まる事にしました。 検挙率が約60%~95%というひき逃げ事件では加害者に対して救護義務違反、現場に留まる業務違反、報告義務違反…などの罰則が下されます。また、致傷や致死などの被害者の状況、加害者の悪質性などを判断材料に罪の重さはどんどん加算されます。 加害者として現場に留まり、事故として処理されるか。逃走して事件として罰せられるか…極限状態の中で加害者には瞬間的、強制的に大きな決断が迫られます。私が遭遇した加害者は、事故を起こした瞬間から被害者のいる所に駆け寄るまでの数秒間に、心の底から湧き出る勇気をふりしぼったのだと思います。 警察と救急が到着し加害者への聞き取りや救護措置が行われている間、私は少し離れた場所で現場の様子を見聞きしていました。事故を起こした直後とは違い、警察や救急が到着してからの加害者の様子は少し安心したような、落ち着いたように私の目には映りました。 自動車運転における人身事故は殺人あるいは殺人未遂です。加害者本人に殺意は無くても結果は変わる事はありません。しかし、事故後の行動が正しいか否かで加害者やその家族の未来は大きく変わります。警察、救急、保険会社など…万が一交通事故の加害者になっても助けてくれる体制はできています。しかし、ひき逃げ犯になるとこの体制から追いつめられる事になります。 私が遭遇した事故の加害者は正しい行動をとったことでこの体制に救われ、社会の一員として復帰する事ができるはずです。そして、そばで寄り添ってくれる家族という希望が事故後の新しい生活を支えてくれる事でしょう。事故現場から被害者が搬送された後、加害者は家族に連絡を。よだんたっゃちしこ起を故事んさ父お、ねんめご「。たしでうよるいてし話で話電とんさ娘、りとごめんね。」 法的義務と道義的責任と社会復帰を果たし、家族を守る事こそが本当の意味での自己防衛ではないでしょうか。六年前、目の前で繰り広げられた現実を通して、私はこの事を学びました。自動車共済・自賠責共済はぜひ近畿共済でご契約を お問い合わせ・ご連絡は 当組合京都事務所 TEL:075-671-1894

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